日常診療のOne Point Advice
人は薬,薬は人(痴呆老人へのとりくみ)
佐々木 健
1
1きのこエスポアール病院
pp.698
発行日 1992年8月15日
Published Date 1992/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414900542
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最近,臨床の場で痴呆患者を診察する機会が増えている.つい7,8年ほど前までは,ボケにきく薬はない,と治療に対するニヒリズムも強かった.しかし,近年,いわゆる,脳循環,代謝改善剤が続々と開発・発売ざれ,痴呆患者に使用されることも多くなった.私の経験では,確かにこれらの薬剤の使用は,従来からの向精神薬中心の薬物療法よりもはるかに安全である.また血管性痴呆患者には意外と有用なことも多い.さらに私は,試行錯誤の経験の中から興味深いことをみつけた.それは,これらの薬剤は痴呆の辺縁症状に対して,一定のベクトルがあるらしいということである.二大別すると,多動を主とする陽性辺縁症状(俳徊,夜間せん妄,興奮など)を調整方向へ導く薬剤~flunarizine (フルナール),citicoline (ニコリン), dihydroergotoxin (ヒデルギン)などと陰性辺縁症状(抑うつ,意欲,自発性低下)を賦活させ元気を出す方向へ導く薬剤~dilazep (コメリアン),nicergorine (サアミオン), idebenone (アバン),amantadine (シンメトレル)などである.ところが実際の処方の中には多動の人に賦活系の薬剤を投与したため,より多動となり,それを抑制するため向精神薬を同時に処方している例や,無定見に複数の薬剤をカクテル処方したため,ますます痴呆が悪化した例もある.
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