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Ⅰ.初めに
老齢人口の増加に伴い,痴呆老人の急騰が伝えられている.全国には約60万人の在宅痴呆老人がいると推計されているが,それに対し痴呆老人の入院,施設入所者は,老人ホーム,精神病院併せて7万人の受け皿しかなく,早急の対応が必要である.そのような現状を受けて,厚生省が「痴呆性老人専門治療病棟」という施設基準を設けた.それにはスタッフ数,設備などきびしい基準があるものの,点数的には魅力がある(表1).その設備基準では①専用の回廊式廊下,②一人当たり4m2の訓練スペース(生活スペースとしては23m2),③専用の機器・器具などが挙げられている.つまり厚生省の考える痴呆老人の生活環境としては,「広いスペースに回廊式廊下」をワンセットとしているのみである1).「痴呆老人の生活環境」を考えた場合,ハード(設備)面だけでいいのだろうか.また,広ければ広いほど,痴呆老人には適しているのだろうか.
柴田病院は,226床の特例許可老人病院で,老人デイケア・精神科デイケアも開設している.当院には75床の痴呆病棟が有り,その中に約40畳の畳部屋が有る.そこで25名前後の痴呆老人が男女混合で集団生活を営んでいる.厚生省がいうような基準には,とうてい届かないような施設で処遇を施している.
痴呆老人の生活環境を考えた場合,ハード面だけの対応では,どうにもならないことは経験上わかっている.また,これまでの「老人痴呆の要因」についての研究2-4)をみても,その中には,身体的要因―性格的要因―心理的要因―対人関係的要因―社会環境要因等多くの要因が取り沙汰されている.そのような多くの要因に対応していくためには,痴呆老人の「生活環境」そのものから考えなおさなければならないようである.
今回は,さまざまな角度から「痴呆老人の生活環境」について検証していきたいと思う.また,痴呆老人の地域ケアについても,若干であるが,当院の取り組みを振り返り,考察していく.
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