日常医療のOne Point Advice
医者の嘘と患者の嘘
徳永 進
1
1鳥取赤十字病院内科
pp.497
発行日 1992年6月15日
Published Date 1992/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414900463
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忙しい外来で,患者の立場になって考えるなどということは,最初の30分くらいが限度だろう.でも「患者は本当のことを言っている」という先人たちの残した言葉は,心の隅にともしておかなくてはいけない.
つい先立っても,その言葉が灯台の回転灯のようになって光った.患者さんは84歳の男性で,「ここがつかえます」と言って新患外来へやってきた.胸骨上縁あたりを押さえていた.「ここですか」と言って,胸骨下縁を押さえると「いえ違います.ここです」と言って,押さえ直した.食道透視を受けてもらうと,患者さんがここだと手をあてた所に,食道癌があった.「憎いねえ」と看護婦さんに言うと,看護婦さん,「ほんと,癌って憎いですねえ」と言ったけれど,「そうじゃなくて,あのおじいさん,さすが建具職人だね,ドンピシャと当てちゃうじゃない」とぼくは言った.
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