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わが国では急速に人口の少子高齢化が進んでいて,それにともなって医療や看護・介護における誤嚥のケア・予防の重要性がますます大きくなりつつある.年齢とともに,脳卒中後遺症などの神経疾患,胃食道逆流症などの消化管疾患,歯周病などの口腔・咽頭疾患を有する確率が高まり,二次的な嚥下障害が起こりやすくなる.しかもその背景には,年齢を重ねることで,他のさまざまな臓器の働きと同じように,個人差はあるにせよ,随意運動の1つである嚥下機能の低下がある.したがって,80歳,90歳以降には,既往に脳卒中のある人は当然として,一見すると大病の既往が全くない人のなかにも,認知症様症状の進行と誤嚥性肺炎を繰り返すことで,時に“老衰”と表現されるような亡くなり方をする人がかなり目立つようになってきたように思う.
何十年も前から,誤嚥性肺炎が臨床現場でますます頻繁の高い問題になるであろうことは理論的には予測はされていても,実際に日常的にそのことを肌で感じるようになってしまうと,また別の次元で誤嚥と誤嚥性肺炎についての疑問点を強く感じるところである.そもそも嚥下運動の生理学的メカニズムについて,われわれ臨床医は十分な知識をもっているのだろうか? 嚥下障害を引き起こす原因とその早期診断の必要性を,臨床上の重要性に見合うだけの切迫感をもってわれわれは認識しているのであろうか? はたまた,誤嚥が引き起こす問題の大きさ,重要性を臨床疫学的データに基づいて知っているのだろうか? 誤嚥を契機に起こってしまった肺炎の診断と治療は適切なのであろうか? 現在の技術からして可能な予防的処置が単なる知識不足のために行われていないのではないだろうか? などなど.
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