特集 診療現場での倫理 Case Study
倫理学的判断力をいかにして身につけるか―一般医に向けて
服部 健司
1
1群馬大学大学院医学系研究科医学哲学・倫理学
キーワード:
倫理学
,
文学的センス
,
ケーススタディ
,
物語
,
ドラマ
Keyword:
倫理学
,
文学的センス
,
ケーススタディ
,
物語
,
ドラマ
pp.658-662
発行日 2009年9月15日
Published Date 2009/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414101758
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臨床現場で日夜からだを張って最善を尽くしている医療者を,高みから裁いて非難したり,これに従えと指図したりする,何やらうさん臭く,煙たいもの――もしかすると倫理はそんなふうに感じられているかもしれない.せいぜい後ろゆびを指されないように気をつけ,表向きうまく取りつくろわなくてはならない.病院の玄関には「患者様中心の医療」といった看板を掲げ,職員向け倫理研修を企画し,外部委員を入れた倫理委員会を立ち上げ,鎧で身を固める.まるで医療倫理とは,○か×かを突きつけ,医療者の心をこわばらせる目に見えない脅威ででもあるかのようだ.ところが,医療倫理というのは,本来,「どうすればいいんだ?」という医療者の惑いと嘆きと疑問とから起きたものだ.外圧や世間体からではなく,神ならぬ身として医業にたずさわるなかでふと浮かんでくる悩みと自問に発したものだった.
たとえば生命の延長と患者の望むQOLとが両立しない時,どちらが重んじられるべきか.医学的にみて最適な治療を患者本人が望まず頑なに拒否する時,あるいは治療方針をめぐって家族のなかで意見がばらばらな時,医療者はどこまでどう介入したものだろうか.古くはヒポクラテスのような各地のローカルな医術職能集団の師がその流派としての答えを差し出し,これが師弟間で継承されていた.けれども現今,そんな一方的な答えの出し方では通用しそうにない.この種の問題に絶対的な答えはあるのだろうか.医療〈倫理学〉は正しくゆるぎない答えを教えてくれるだろうか.
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