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Case
患者:65歳,女性.
主訴:歩行困難,微熱,会話困難.
既往歴:①統合失調症(感情障害が強い),②左前頭葉髄膜腫の術後(55歳),③急性壊死性胆囊炎にて胆囊摘出術(今回の入院の2カ月前),④僧帽弁狭窄症(中等度).
生活歴:①ADL は自立しており買い物なども可能,②息子3人と暮らす,③喫煙・飲酒歴なし.
服薬歴:炭酸リチウム(200mg) 6錠分3,カルバマゼピン(100mg)1錠分1,フェニトイン(100mg)2錠分1,クロナゼパム(0.5mg)2錠眠前,レボメプロマジン(25mg)1錠分1,トリヘキシフェニジル(1mg)3錠分3,センノシド(12mg)2錠眠前.
現病歴:2カ月前の手術にて入院した際には,患者のADLは自立しており精神状態も安定していた.その退院後も自宅で息子3人と一緒に暮らし,しばらくは問題なかった.しかし,今回入院の1カ月前から,患者の喋り方が遅くなり,加えて徐々に歩き方もぎこちなくなり,歩行困難となってきた.入院2週間前には,トイレに行くこともできずに大量の尿失禁と下痢がみられるようになった.さらに全身倦怠感も訴え,食事摂取も低下してきた.これら症状は次第に増悪し,来院前日には,ベッド上で寝たきりの状態となった.また,独語やお経を繰り返し唱えるなどの異常行動が出現し,会話も困難となった.そのため,家族が心配して,患者を主治医のいる精神科へ受診させたところ,微熱と嘔吐がみられたことから,内科的疾患の有無の精査目的に当院へ患者紹介された.紹介状には最近の薬剤変更などの記載はなかった.内服薬は家族により,前日までどうにか投与されていた.
入院時身体所見:血圧120/70mmHg,心拍数65/分,呼吸数24/分,体温37.4℃,SpO2 95%(室内気).全身状態は不穏でお経を唱えている.結膜に貧血や黄染なし,頸部リンパ節腫脹なし,頸部硬直は明らかではない,甲状腺腫大なし,頸静脈波の上昇なし,口腔内は著明に乾燥・咽頭発赤なし,呼吸音は清・左右差なし,心音は整・心雑音なし.腹部は膨満し,腸蠕動音はやや亢進,心窩部から右季肋部にかけて圧痛あるが反跳痛や筋性防御はみられない.下腿浮腫なし.皮膚は乾燥.
神経学的所見:脳神経所見で明らかな異常なし,腱反射亢進減弱は明らかでない,異常反射なし.両上下肢で筋トーヌスの亢進あり,筋強剛あり.
入院時検査所見:血算;WBC 11,600/μl,Hb 11.2g/dl,Hct 32.4%,MCV 91fl,Plt 34.1×104/μl.生化学;Na 133mEq/l,K 2.5mEq/l,Cl 97mEq/l,Ca 8.0mg/dl,Mg 2.7mg/dl,TP 7.7g/dl,BUN 24mg/dl,Cre 2.2mg/dl,AST 78IU/l,ALT 50IU/l,γ-GTP 163IU/l,ALP 600IU/l,s-Amy 277IU/l,CPK 30IU/l,T-Bil 0.5mg/dl,BS 123mg/dl.動脈血液ガス検査(室内気);pH 7.504,PaCO2 28.1torr,PaO2 119.0torr,HCO3- 21.9mEq/l,AG=14.一般尿検査;比重1.008,pH 7.5,尿糖(-),尿蛋白(1+),尿潜血(2+),ケトン(2+),ビリルビン(-).髄液検査;細胞数 1/μl,髄液蛋白 34mg/dl,髄液糖 79mg/dl.薬物血中濃度;フェニトイン 9μg/ml(有効血中濃度10~20),カルバマゼピン 1μg/ml(有効血中濃度4~12).
胸部X線写真:心拡大あり,明らかな肺炎像や肺うっ血所見なし.
心電図:右軸偏位,反時計回り方向回転,I,aVLおよび前胸部誘導(V1-4)にかけて陰性T波と著明なQTc(0.67sec)延長を認める(図1).
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