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Case
患者:55歳,男性.
主訴:意識障害.
既往歴:特記すべきことなし.
生活歴:ヘビースモーカーで大酒家.
職業:保険会社勤務.
現病歴:前日からかなり飲酒していた.来院当日,昼間は元気だったが,留守にしていた家族が午後3時半頃帰宅するとベッド上でいびきをかいて寝ているのを発見した.呼びかけても応答がなかったため,救急車にて午後4時半頃当院へ搬送された.尿失禁,嘔吐あり.最近の外傷はなかったという.また,大量服薬を思わせるような薬の空きガラなども見つかっていない.検診は受けておらず,高血圧などがあったかどうかは不明.
来院時身体所見:右上肢の強直性間代性痙攣あり,左上下肢はまったく動かさず,右方への共同偏視あり.GCS E1V2M4,血圧90mmHg(上肢血圧は90~100mmHg[触診]前後で左右差なし,下肢血圧も100~110mmHg),心拍数74回/分,呼吸数24回/分,SpO2 99%(酸素マスク8l/分投与下),体温35.0℃(皮膚発汗あり).結膜に貧血・黄疸なし,頸部硬直なし,両側頸部で血管雑音聴取する,口腔内乾燥著明,呼吸音は清,心音は整・雑音なし,腹部は軟,腸蠕動音は亢進なし,腹部血管雑音なし.
神経学的所見(痙攣停止後):左の同名半盲あり,MMT;上肢右5/左1,下肢右5/左4,四肢の痛覚は詳細不明.深部腱反射;左側で亢進(左バビンスキー反射が陽性).瞳孔;右4.0mm,左3.0mm,両側の対光反射あり.明らかな脳神経の異常なし.
血液検査所見:全血算;WBC 17,300/μl,Hb 18.2g/dl,Hct 53.0%,Plt 27.7×104/μl.生化学;Na 142mEq/l,K 3.8mEq/l,Cl 107mEq/l,BUN 15mg/dl,Cre 1.1mg/dl,AST 19IU/l,ALT 19IU/l,LDH 284IU/l,血糖110mg/dl,CRP<0.10mg/dl.動脈血液ガス分析;pH 7.390,PaCO2 33.0mmHg,PaO2 156.0mmHg,HCO3- 19.6mEq/l,AG=15.
胸部単純X線(ポータブル臥位):図1.
心電図:図2.
本例における患者が救急室へ到着した時,右上下肢を中心とする全身性の痙攣が持続していた.そこで初療医は,すぐにジアゼパムを緩徐に静注したところ,痙攣はすぐに停止した.痙攣終了後の診察において左片麻痺がみられ,急性の右脳梗塞やTodd麻痺などをまず考えたが,初療医は脳血管障害にしては来院時の収縮期血圧が90mmHgと低めであり,一般的な脳卒中とはバイタルサインが違うのではと考えた.初診医と一緒に診察していたシニア研修医は,原因不明の意識障害やバイタルサインと症状が乖離している脳卒中症状の場合には,必ず急性大動脈解離の可能性を忘れないようにと上級医からすり込まれていたため,初療室にて解離に伴う心囊液貯留を除外するために経胸壁心エコーを行った.
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