特集 トラベルメディスンのすすめ
ミニレクチャー
時差ぼけ
松永 直樹
1
1(株)日本航空インターナショナル健康管理室
pp.517
発行日 2004年6月1日
Published Date 2004/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414100965
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5時間以上の時差のある地域間を航空機で急速に移動すると,時間の手がかりの位相が急激に変化し,生体時計と生活時間の間に一過性に脱同調が生じる.その際に睡眠覚醒障害を主とする「一過性の心身機能の不調和状態」が出現することが知られており,これを時差症候群(時差ぼけ)と称している.この成因としては,①体内時計と到着地の生活時間の間に大きなずれが生じること,②体内時計が到着地の生活時間に同調していく速度には,生体リズムの間で差があるため,リズム間の協調関係に乱れが生じること,の2つが主たるものとされている.症状としては,不眠,眠気,精神作業能力の低下,疲労感,食欲の低下などがあるが,「睡眠覚醒障害」が最も重要な症状と考えられる.
睡眠薬の利用により,時差症候群における睡眠障害を軽減することができる.睡眠薬として今日通常用いられているのは,ベンゾジアゼピン系あるいはそれに類似した薬物である.これらは一般に比較的安全性が高く,耐性や依存の問題も生じにくいとされており,時差症候群に弱い場合には,医師の指導,管理の下で服用することについてはとくに神経質にならなくても良いように思われる.超短時間作用型の睡眠薬(ゾルピデム,ゾピクロン,トリアゾラムなど)や短時間作用型の睡眠薬(ブロチゾラム,リルマザホン,ロルメタゼパムなど)が用いられることが多い.ただし,睡眠薬とアルコールの併用は健忘を起こす可能性があり,服用後ある期間中の出来事を記憶していないといった問題を引き起こすこともあるので注意が必要である.
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