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Q1 わが国の深部静脈血栓症の発症リスクと発症頻度を教えてください.
肺塞栓症(pulmonary embolism : PE)の多くは深部静脈血栓症(deep vein thrombosis : DVT)からの血栓遊離によるため,これらを総称して静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism : VTE)と呼んでいる.VTEはこれまで本邦では比較的稀であるとされていたが,生活習慣の欧米化などに伴い近年急速に増加している.VTEの病因としてはVirchow's triad,すなわち,①血液凝固能の亢進,②血流の停滞,③血管内皮の損傷,が重要である.血栓症の増加には食生活の欧米化による肥満・糖尿病などの増加が大きな影響としてあげられるが,それに加え近年の手術方法の変化,とくに気腹式腹腔鏡手術の導入,血管カテーテル治療の増加なども影響している.図1にこれらの病因別にみたVTEのリスク因子を,図2に社会構造の変化とVTE発症要因を示した1,2).
静脈還流にはひらめ筋など下肢骨格筋の収縮による筋ポンプが大切とされるが,長期臥床や肥満例ではこれらの作用が減少し,血流が停滞しやすくなる.欧米,とくに白人では凝固因子の遺伝的構造異常による血栓症が多く,それに環境因子が負荷されて血栓症の頻度が高率であるが,わが国では人種的に凝固因子の構造異常は少なく,環境因子,妊娠・分娩,手術侵襲による血栓症が主体である1,2).しかし最近,日本人のプロテインS徳島変異(Protein S-K196E変異)は非常に多く,DVT患者における発症頻度がOdds比5.58であり,日本人における血栓性素因として欧米人のFactor V Leiden(J1)に匹敵するものであることが明らかになった3).日本人におけるリスク因子をまとめると,65歳以上,手術後,肥満,DVT合併/既往,長期臥床,悪性腫瘍,外傷・骨折後などで,診療科別では整形外科が最も多く,次いで一般外科,産婦人科の順である.
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