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腹痛で来院する患者は多く,経過観察のみで良いのか,入院加療を要するのか,難しい場面も多い.しかし,やはり注意深い病歴聴取と身体所見,検査をすることで,ある程度の判断は可能と思われる.
救急室で診察した初療医は,右下腹部と臍周囲の自発痛と圧痛を有することから大腸憩室炎を疑った.すぐに超音波検査を行ったところ,盲腸から上行結腸にかけての筋層の肥厚と粘膜層の肥厚がみられ,さらに同部位にエコー下で圧迫を加えると疼痛も生じたことから,やはり大腸憩室炎を強く疑った.発熱はあったが,前回診察した救急医も帰宅させていることから,経口抗菌薬を処方し帰宅させて良いのではないかと考えた.そこで,上級医にコンサルトした.
上級医の考え
上級医は,初療医に腹痛の病歴聴取のポイント(表1)と腹痛の身体所見のポイント(表2)を示しながら鑑別を行った.その結果,腸蠕動が軽度亢進しているが,局所症状が強く,発熱もあるため,まず大腸憩室炎を疑い,さらに細菌性大腸炎(invasive type)や非特異性の回腸末端炎も鑑別に入れた.表3に主な腹痛の部位別鑑別疾患も示す.また,今回の症例には当てはまらないが,急激に発症した腹痛では血管性の疾患(いわゆる腸管虚血),穿孔病変や捻転などを必ず念頭に置くようにと告げた.さらに,憩室炎の場合は経口治療を行う場合もあるが,①高齢者,②免疫抑制状態,③その他身体合併症,④高熱,⑤白血球増多,などがみられる場合は,積極的に入院させたほうが良いことも指導した.さらに今回の症例では,初診時と比べ,憩室炎を疑わせる部位の強い圧痛のみならず臍部にも圧痛が広がっているため,大腸憩室炎および腸間膜リンパ節炎や憩室炎に伴う腹膜炎などの合併症も念頭に腹部造影CT検査を行うことを提案した.腹部造影CT検査では,上行結腸に憩室炎と回盲部を中心とした腸間膜に炎症の波及がみられた.さらに上腸間膜静脈から門脈に血栓症が認められた(図1,2).腹膜炎および血栓を伴った門脈炎を合併した憩室炎と診断し,絶食,抗菌薬投与とヘパリンによる抗凝固療法を開始した.
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