増刊号特集 泌尿器科画像診断
Ⅵ.メディカルエッセイ
超音波診断あれこれ
岡田 謙一郎
1
1福井医科大学泌尿器科
pp.358
発行日 1999年3月30日
Published Date 1999/3/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413902629
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大都市では経験されないことだが,10月に入ると当院では外来患者数が増え忙しくなる。稲の収穫をメインとした農作業も一段落し,雪が降り始める前に病院で懸案の身体の手入れも済ませておこう,という背景による。月末のそんな夕べ,カンファレンスの最中に近郊のある病院から,「68歳の男性,膀胱癌による尿閉で尿毒症状態の患者がいるが当院では処置できない。これから救急車でそちらに向かうので引き受けてほしい」との依頼電話があった。膀胱腫瘍で尿閉とはいささか腑に落ちないなと思いつつも,電話を受けた病棟医長の話では,「超音波で膀胱の頸部に大きな腫瘍塊があり,壁全体にも累々と腫瘍性病変がみられる」との由。BUNは100mg以上,血清クレアチニン値も9mg/dlを超えており,高齢ということもあって即刻入院していただくことにした。
下腹部は膨隆し,一見して尿閉状態と察せられる。患者は昔風のドイツ語でいうとleidendではあるが,進行した癌患者にみられるkachektischな印象はない。「あっ,これは」,数年前の経験が思い浮かんだ。超音波のプローベを当てると,なるほど尿の充満した膀胱腔内中央に突出する球状のmassをみる。これが何であるか,泌尿器科医ならすぐに見当がつく。プローベを足方に向けると,まぎれもなく腫大した前立腺であった。腎は当然ながら明らかな水腎症,すぐにカテーテルを留置した。状態が安定するのを待って手術し,患者さんは事なきをえた。
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