メディカルエッセイ
「型のごとく」手術について
中川 昌之
1
1大分医科大学泌尿器科
pp.262
発行日 1998年3月30日
Published Date 1998/3/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413902300
- 有料閲覧
- 文献概要
医局での手術報告を聞いていると,時に「型のごとく行った」と説明している。手術には型のごとく行って良い場合とそうでない場合がある。
その患者さんが当科を訪れたのは6年前のことであった。その1年半前に直腸癌に対してMilesの手術がなされていたが,今回は尿細胞診異常ということであった。とても我慢強く,また自分の病気や治療についても必要以上に尋ねることのない,医療者の側からすると,治療の進めやすい患者さんであった。膀胱鏡所見は神経因性膀胱によくある高度な肉柱形成の中に,粘膜浮腫と出血が広範にみられた。組織診断の結果は多発性の移行上皮癌(G3)であった。すでに人工肛門を造設され左脇腹に袋を下げておられるので,この上,膀胱全摘除術,尿路変向術を行い,いわゆる二丁拳銃にするのは忍びないという気持ちと,われわれがこれまで行ってきた放射線併用シスプラチン局所動注療法の高成績への期待もあり,まずシスプラチン局所動注療法を行うこととした。しかし,約3か月かけて2クール終了した時点の評価は「無効」という厳しいものであった。そこで膀胱は残せないということを説明したが,すぐに了解していただいた。恐らく,直腸の手術後が順調に経過したことと,われわれ治療スタッフを信頼していただいた上での即答であったと思う。そして,手術はといえば,予想以上に前回の直腸手術と放射線療法の影響があり,尿管,腸管の剥離が非常に困難で,小腸の色も悪く,縫合不全やイレウスなどの術後合併症を危惧しながらも型のごとく行って終了した。
Copyright © 1998, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.