メディカルエッセイ
吸収性自動縫合器使用の苦い経験
伊藤 晴夫
1
1千葉大学医学部泌尿器科
pp.270
発行日 1998年3月30日
Published Date 1998/3/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413902302
- 有料閲覧
- 文献概要
尿路変向術の最近の進歩には目をみはるものがある。QOLを重視した術式として自己導尿をする尿禁制型尿路変向術,さらには自排尿可能な正常位置の新膀胱が選択されることが多くなってきた。特に新膀胱はうまくいけば理想的であり,患者にとってはこれ以上の福音はないであろう。しかし,哺乳類だけでも7000万年以上の歴史があり,ヒトの排尿機能はきわめて精緻につくり上げられている。このメカニズムに迫ろうというのであるから大変である。新膀胱は本来は消化器である腸管を使ってつくったものであり,また当然ながら神経支配もない。尿失禁,排尿困難などの膀胱の最も基本的な問題,さらには水分・電解質の吸収の問題,温存した尿道からの癌再発の問題などその解決は容易でないことは明らかである。
私が泌尿器科に入局したての頃,小腸を用いて尿管と膀胱をつなぐ,いわゆる"ブリッジ"といわれた手術が盛んに行われていた。この中で経過の良くなかった例は,長期的には腸の部分が拡張してしまい,再手術を要したことが多かったように記憶している。この思いが強いので,新膀胱をつくるときも小腸を使用することについ躊躇してしまう。小腸よりは大腸のほうが拡張してしまうことが少ないのではないかという気がする。そこでS状結腸を使用して,また慣れない自動縫合器を用いて新膀胱を作製したときの失敗談を書いてみたい。
Copyright © 1998, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.