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まずこの本のコンセプトに驚かされた。「手術は暗記である」という。日本では泌尿器科手術に関していえば,泌尿器科の医師一人当たりが経験できる症例数は一般外科医に比較すると十分とはいえない。一般にいわれているように,より多くの手術を経験した術者ほど手術は上手と考えられており,これは100%正しいとはいえないが,かなり的を射ていると思われる。患者にしてみれば,一生に1回しか受けない手術で成功を求めることは当然であるが,手術をする側からすると,同じ術式の手術でもやさしい症例もあれば難渋する場合もある。私自身,これまでやってきた手術のうち本当に自分自身満足のできる手術はそう多くないと思っている。もちろん経験を積むほどに目標は高くなるし,患者側の身体的条件も毎回異なるからである。私はこうした理由からいつも良い手術書を求めている。
良い手術書とはどのようなものであろうか。おそらくそれを読み学習すれば,解剖がよくわかり目的とする対象臓器までのアプローチがスムーズに行え,また予想外のことが起こっても対処法を想起でき,より安全に手術を完遂できることを可能にするような書物であろうか。もちろん1冊の本だけでそう簡単にできることはなく,実際の症例を経験しながら手術書を繰り返し読み,局所解剖の理解を深め,正しい膜面での剝離を行い,目的を達成することになる。そうしたことを考えると,本書は手術経験の少ない若手医師にも理解しやすいように,創面が実際にどのように見えるかわかりやすく図示されており,著者がいうところの「図脳」を刺激してくれる。またワンポイントの解説は非常に的を射ており,予想外のハプニングが起こっても対処法の想起につながる。また手術で大事な視野を作る際の左手の使い方もよく示されている。それからどのような症例が困難な症例で,その場合にはどのように対処するのがよいのかも示されており,非常に感銘を受けた。
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