昨日の患者
ガーゼ遺残?
山下 俊郎
pp.53
発行日 1995年3月30日
Published Date 1995/3/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413901428
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大学病院の当直をしていたある日,中年の男性が搬送された。かなり遠方からの出稼ぎの方で,建設現場で作業中に,建設資材が外陰部に当たったという。両陰嚢は小児頭大に真っ赤に腫れ上がっていた。緊急手術を行ったところ,幸いに睾丸は正常であったが,陰嚢の皮下血管から出血したらしく,大量の凝血塊を認めた。止血およびドレナージ手術で事なきを得,患者さんも感謝して退院して行かれた。
それから5年後,たまたま小生の外来にその方が再診された。また出稼ぎにきておられ,元気に働いているが,最近陰嚢内の有痛性の腫瘤を触れるという。以前事故で世話になったことを思い出して,来院されたという。拝見すると,確かに陰嚢ほぼ中央に鶏卵大の腫瘤がある。この時真っ先に頭に浮かんだのは,5年前の緊急手術の際のガーゼ遺残である。大量の凝血塊を排出し,皮下の出血点を止血した手術であったので,ガーゼ遺残は大いにあり得る。陰嚢手術に用いるガーゼにはX線非透過性のマークは入れていなかったので,X線検査をしても仕方がない。早速,手術を行った。出て来たものは何と,白色の充実性の腫瘤であり,周囲に浸潤しており,きれいに摘出できる代物ではなく,生検に終わった。病理組織診断は移行上皮癌。早速超音波検査を行ったところ,左腎盂内に大きな腫瘤を認め,後腹膜のリンパ節も累々としており,進行腎盂癌と判明した。患者さんに聞くと,そういえば最近尿の色がおかしかったとのこと。その後,希望により郷里の病院に転院されたが,暫くして亡くなられた。
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