日本泌尿器科臨床史・8
日本における勃起機構の認識史
友吉 唯夫
1
1滋賀医科大学
pp.988-989
発行日 1991年11月20日
Published Date 1991/11/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413900483
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勃起は人類存続の原動力でありながら,そのメカニズムについては,書いてありそうな本を開いてもそう詳しい記述はない.これは古医書に限ったことではない.呉建の名著『自律神経系』(改訂2版,1935,克誠堂)には半ページの,越智真逸著『最新生理学』(8版,1936,南江堂)には13行の簡単な解説を見るのみである.
腎虚(じんきょ)は現在では漢方医学の概念であるが,かつては房事過度に起因する精力欠乏を意味することばであった.すなわち腎臓が男性の性的能力と関係のある臓器とみなされていたのである.ところが古医書を見ると,図1のように腎臓そのものではなくて,左右の腎臓の間に精力の源泉である気が存在するとある.したがって勃起にも関与しているのである.この図を載せる『腹證奇覧』(1716)の著者稲葉文禮は「(臍下ノ)形容枯槁(ここう)ストイヘドモ其ノ気存スルモノハ起(たた)シムベシ」と述べている.これは精巣血管系が腎間を起点とすることからきた考え方ではなかろうか,三谷笙洲の「解體發蒙』(1813)にも,「大小腎間ノ経脈大幹ヨリ血液ノ醇粹ヲ収引シテ睪(えき)二輸(おく)リ精ニ化シ……」とあるのと軌を一にするのである.
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