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このたび,腹膜透析についての新刊『腹膜透析スタンダードテキスト』を読む機会を得た。腹膜透析の原理などの基礎知識から治療の実際,用いられる機器の使用法,治療効果とその評価,合併症の病態と治療,患者教育など,医師,医療スタッフが腹膜透析を実施するうえで必要な知識がコンパクトに網羅されていた。特に,腹膜における構造と拡散の関係や物質除去のキネティックモデル解析にも続いた治療法と効率の関連などに関する丁寧な記述については感銘を覚えた。既に,腹膜透析の解説書,テキストといわれるものは多く存在するが,これほど完成度の高いものを見ることはなかった。その主な理由は,今までのテキストのほとんどが腹膜透析の経験や臨床研究に長けた1人または複数の臨床家が関連する項目を分担し合って書いたものであり,原理的な説明が未熟であったり,内容上のバランスが偏ったりすることが多く,本書のごとく基礎から臨床まで,また,原理から使用機材の解説までバランスの取れた内容のテキストは存在しなかったように思われる。
本書の優れた内容には,3人の著者がいずれも腹膜透析がわが国に導入された初期から深くかかわった方々であることのみならず,それぞれ,医工学,臨床医学,そして,機器・透析液の開発とその臨床への導入と販売という異なる立場から腹膜透析治療に深くかかわった方々であるという特徴が章の中に有機的に組み込まれている点であろう。中本雅彦氏が腹膜透析の臨床と研究の第一人者であることはいうまでもない。医工学領域でありながら山下明泰氏は工学系大学院を終えた若いころの数年を臨床病院に在籍され,また,持続携行型腹膜透析(CAPD)の生みの親であるMoncrief先生とPopovich先生が教鞭をとられたテキサス大学オースチン校の研究室に在籍し,講義まで受け持たれた実績を有する方であり,CAPDの原理やキネティックモデル解析にも続いた治療システムの提案,コンピュータ機能評価システム構築など臨床を踏まえた腹膜透析の科学的進歩に貢献され,難しいはずの内容がわかりやすく本書中にちりばめられている。また,髙橋三男氏は30年にわたりバクスター社をはじめ腹膜透析関連企業での機器・透析液開発や在宅治療としてのCAPD治療におけるソフトウェアの開発に従事され,それらの臨床現場への導入に長けた方であり,このようなメーカーの方の参画も今まであまりなかったことである。
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