書評
「腹腔鏡下大腸癌手術―発生からみた筋膜解剖に基づく手術手技」―加納宣康 監修/三毛牧夫 著
山口 茂樹
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1埼玉医科大学国際医療センター・下部消化管外科
pp.223
発行日 2013年3月20日
Published Date 2013/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413103045
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本書『腹腔鏡下大腸癌手術―発生からみた筋膜解剖に基づく手術手技』は,著者の三毛牧夫先生の大腸癌手術,特に臨床解剖に対する熱い情熱のこもった1冊である。以前どこかで感じたことのある,本書の読後のこの感覚は,しばしば本文で登場する故・高橋孝先生が長く在籍された癌研病院で味わったものと似ている。私は出身教室での研修を修了してすぐに癌研病院で研修する機会を得たが,どのスタッフも手術に関してこだわりがあり妥協がない。時には激しく口論し,意見を戦わせていた。本書を読んでそのときのなつかしい感覚と,長年こだわりの手術を積み重ねてこられた三毛先生の情熱が重なって感じられた。
内容をみると,特に左側結腸と直腸の筋膜,剝離層について多くのページが割かれている。特にToldtの癒合筋膜の癒着不全状態であるS状結腸窩について,私自身も認識はあるものの,これだけ詳細に記載されたものは今までみたことがない。また一般に腹膜を裏打ちする筋膜とされる腹膜下筋膜subperitoneal fasciaと,直腸間膜を包み込む直腸固有筋膜は現在の大腸癌手術の剝離層の指標として最も重要な筋膜であるが,これらについては発生学的な見地と実際の手術の経験から独自の理論が展開されている。最近の組織学的検討や,ビデオによる剝離層の議論により標準的な術式はかなり洗練されてきている感があるが,術中見えていない部分の解剖,特に筋膜の連続性,非連続性についてはまだまだ検討の余地がある。
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