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外科学の黎明(れいめい)期から今日までに変わることのない大原則は,正確な解剖の理解です.われわれ外科医師が安全で質の高い手術を行うためには,過去の歴史の真実をひもとき,正しい解剖を認識した手術手技を完成させなければなりません.近年では従来認識できなかった腹壁解剖も次第に解明されており,内視鏡外科手術の導入により手術法や手術手技もさらに多様化しながら変化しています.鼠径部や腹壁ヘルニアは個々の症例ごとに手術前の状態や解剖の状況が異なり,完全に定型化した手術が行えないことが多々あります.基本的な腹壁解剖を熟知した上で,個々の症例に見合ったヘルニア手術を完遂させ,患者様にとって短期的にも長期的にも高いQOLが維持できる手術を提供する必要があります.
わが国で1990年代に内視鏡外科ヘルニア修復術が開始された当時は,不鮮明な暗い2次元画像による手術でした.現在では鮮明な高解像度画像や3D画像の手術が可能となり,鼠径部や腹壁解剖が腹腔内から解明されつつあります.これまで認識できなかった微細な膜構造や神経・血管走行が認識できる時代となり,数々の新しい知見が得られています.それに伴い,多彩な解剖学的用語や数々の解剖認識についての相違が報告されています.今後この異なった用語を統一する方向で検討しながら,正しい腹壁解剖を認識した術式を普及させていくことが重要です.この20年以上の歴史の中で腹壁ヘルニアに対する内視鏡外科手術での手技は大きな変遷が見られますが,まだまだ質の高い手術手技が普及しているとは思えません.2014年の診療報酬改定により日本での内視鏡外科手術数も大きく増加しています.今後ますます多様化していく鼠径部や腹壁ヘルニア治療の手術手技に向かって,若い外科医師はさらなる努力と勉強が必要となります.
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