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本書は『正しい膜構造の理解からとらえなおす ヘルニア手術のエッセンス』(医学書院,2014)に続く,著者のヘルニアに関するテキストブックの第二弾である.といっても,本書は著者自身が述べているように,前著で得たヘルニアに関する知識を基に,明日,明後日に予定された手術を成功させるための実践的解説書である(著者は「超実践的」と表現している).
男性鼠径ヘルニア16章,女性鼠径ヘルニア3章,計19章からなる本書には,手洗い,術野の消毒,ドレーピング,術者の立ち位置,皮膚切開の考え方,手術器具の持ち方・使い方,手術糸の選択,などの基本的事項から,ヘルニア手術のための膜構造や実際の手術手技まで豊富な内容が含まれている.また,著者からのコメント(著者の似顔絵に吹き出しで記載されている)として,一般的な教科書には書かれていない,ちょっとした工夫や注意点がふんだんに盛り込まれている.外科専攻医を対象とした本書ではあるが,われわれ指導医にとっても,たくさんの「気付き」や「その通り!」があり,読み進みながら,ついつい大きくうなずいたり,相づちを打ったりしてしまった.前著同様,簡潔明瞭,ふんだんに盛り込まれたシェーマは大変わかりやすい.これだけ盛りだくさんでありながら,全172ページとコンパクトにまとめられているため,あっという間に,そして何より楽しく読み終えることができた.余談だが,第1章の「術野をつくる」では,剪刀(鋏)やメスの持ち方が丁寧に解説されている.その昔,私が研修医のころ,バイト病院に外科医仲間から鋏使いの名手とうたわれる大先輩がいた.技を盗むべく,いつも筋鉤を引きながら目を丸くして見入っていた私は,ある日,ふとその先生のCooper剪刀の持ち方の特徴に気付いた.本書にも記載されている通り,通常,剪刀の指環には第1指と第4指を通すが,先輩外科医は第4指の代わりに第3指を使っていたのだ.つまり一般人が家庭用ハサミを使うのと同じ.これこそ名人の秘訣に違いない,と思って,恐る恐る尋ねてみると,師曰く「え,そうなの? 知らなかったよ」の一言.そんな出来事を思い出した.
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