書評
加納宣康(監修)/三毛牧夫(著)「腹腔鏡下大腸癌手術―発生からみた筋膜解剖に基づく手術手技」
杉山 保幸
1
1帝京大溝口病院・外科
pp.1472
発行日 2012年11月20日
Published Date 2012/11/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407104371
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本書は現在のトピックスの1つである腹腔鏡下大腸癌手術の手技を解説しているので,大きなカテゴリーとしては医学書に分類されることは論を俟たないが,それだけでは済まされないと感じたのは小生だけであろうか.カテゴリーを細分類すると,タイトルからは「手術手技書」となるが,よく読んでみると「腹部の臨床解剖学書」としたほうがよいともいえる.また,「消化管外科医が手術を修得するための基本的な心構え」といった教育論書でもある.さらには「大腸癌手術における覚書」といった著者自身のエッセイというように判断しても妥当かもしれない.文章の端々に著者の外科医としてのポリシーが述べられ,時には人生観も言外の意として込められているからである.
著者が豊富な手術経験と莫大な数の論文検索を基にして得た解剖学的知識と手術手技を,初心者の立場に立って解説してあるため,非常に理解しやすい内容になっている点が本書の特徴である.すべての図がハンド・ライティングで描写されており,カラー写真が多用されている従来の手術書とは趣を異にしている.“手術記事の中の図を,下手でも自分で描けるのが真の外科医である”と駆け出しのころに恩師から教えられたことを今でも鮮明に記憶している.撮影技術の進歩で写真やビデオとして手術記録を残すことがほとんどという現況で,術中体位,ポート・鉗子の挿入図,腹腔内での操作状況,などすべてが手描きである点が,著者の“外科医魂”の現われでもある.同時に,随所で断面図を挿入して読者の三次元的な理解をアシストしているところは心憎いばかりの教育的配慮である.
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