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Vesaliusの『人体構造論(ファブリカ)』(1543)は,それを境として医学史が2つに分けられるほどの偉大な図書といわれる。自分の眼で確かめた所見に基づく詳細な記載はもとより素晴らしいが,芸術的価値も高い約300のみごとな図版が含まれていなかったら,それほど喧伝されることもなかったのではなかろうか。これ以後,正確で美しい解剖アトラスを提供することが,解剖学者の重要な役目となったのである。その極致として,木版画ではToldtの『人体解剖学アトラス』(初版1897~1900),そして近代的なカラー印刷図譜ではPernkopfの『臨床局所解剖学アトラス』(初版1963~/日本語版,医学書院『人体局所解剖学』全4巻7分冊[1937~1960]から図版を抜粋して編集)を挙げることができよう。この2点は共に,ウィーン大学解剖学教授の企画・指導により,ドイツで印刷された書物である。解剖学アトラスに関する限り,ドイツ語圏への信頼はゆるぎないものであった。しかし,1914年,第一次世界大戦が勃発してドイツから多数の米国留学生が帰国の途についたことと呼応して,ドイツ医学の衰退が始まったと解釈することもできよう。Toldtはドイツ解剖学の爛熟の極点,Pernkopfは偉大なる残光とでもいえようか。ともかく20世紀前半の30年余りの間に,2度の世界大戦により継続性が断たれたことが大きい。世紀後半は,過去の遺産の図版を,手を代え品を代えて新企画のなかに巧みに取り入れて糊塗してきたという感が強く,歯がゆい時期がだいぶ続いた。そこへ,このアトラスの発刊である。ドイツ解剖学のアトラス製作の伝統が連綿として生き続けて,突如として大輪として復活したことを心から喜びたい。
それにしても“プロメテウス”とは,穏やかでない。この神話名から派生して「先に考える男」という意味があると聞く。ここで思い出すのは,ドイツ解剖学が前世紀初めに機能解剖学をいち早くとり入れ,Braus(初版1924)やBenninghoff(初版1939)が魅力的でいささか理屈っぽい教科書を製作してきたことである。これらはまさに当時の先駆けであった。今度の先駆けはどんな意義を持つのだろう,書名が単なるAtlas der Anatomie(解剖学アトラス)ではなく,Lernatlas(学習アトラス)とうたっているところに表されていると思う。上述のPernkopfの大著には副題として『局所層序的剖出アトラス』とあり,実際に一層ずつ丹念に剖出を繰り返し忠実に描写した記録の集成である。このような場合,その特定の解剖体の所見に依拠する程度が高くなるから,必ずしも標準的とは称しがたいこともありうる。“プロメテウス”の図版は伝統に立脚しながらも近年のコンピューター支援の成果も巧みにとり入れ,典型的・標準的かつ割り切りのいい美しい図版に仕上げられており,学生にとっても理解しやすいのではないか。
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