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理学療法士の立場から
まず,本書を開いて感じることは,明晰で洗練された沢山の図譜が惜し気もなく掲載されていることである.本書は,器官系ごとに分類された系統解剖学のなかで,運動器系を中心とした解剖学アトラスという位置づけだと聞いている.しかし,単なる部位ごとのアトラスを寄せ集めた書ではない.とくに骨格筋に関しては,すべての部位において個々の筋の位置や形が理解できるように,浅層から深層まで,部位によっては1筋ごとに剝離した図譜が並べて掲載されている.また,他に類を見ない多方向から描かれた運動器系器官の図譜や断面が描かれた図譜が目をひく.これらの運動器系器官の位置と,神経や血管との位置との関係も一目でわかるように工夫されている.さらに,近年のコンピュータグラフィックス技術を活かし,浅層から深層にわたる筋,靱帯,滑液包,骨などの器官の重なりを立体的に描いた図譜も多く見受けられる.われわれ理学療法士は,運動器系,とくに筋を治療対象とする機会が多く,どの筋のどの部位に障害が起こっているかを評価しなくてはならない.個々の筋の端から端までの詳細な形や位置を,三次元的に理解しなくてはならない.十分な人体解剖実習が行われているとは言い難い現状では,本書が大きな手助けとなるに違いない.
実は,われわれ理学療法士としては,筋の位置や形を理解しているだけでは十分ではない.個々の筋が収縮したときの関節の動きを,機能解剖学的視点から理解しておく必要がある.しかし,形や位置を詳細に示した一般的な解剖学書やアトラスなどでは,起始や停止の位置が筋に隠れてしまっている.また,個々の筋がどの領域とどの領域とをつないでおり,その結果どの方向への関節の動きをつかさどるのかをイメージすることも困難である.ところが本書は,前述した局所解剖のセッションに加え,機能解剖のセッションも充実している.すなわち,筋の起始と停止の位置が一目でわかり,かつ起始と停止を結ぶ模式化された個々の筋の走行図が掲載されており,正確な運動方向の推察を助ける.さらに,運動学的・臨床医学的な情報もふんだんに盛り込まれており,初めて筋の構造や働きを学ぶ学生にとっても,臨床で働く理学療法士にとっても,バイブルとなるに違いない.
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