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1 はじめに
静脈性腎盂造影は,腎・尿管・膀胱に至る尿路系臓器の解剖学的所見とその機能についての情報が1枚のX線フィルム上に描出され,種々の泌尿器科的疾患の診断において日々多用される検査法である。しかしながら,前立腺肥大症の診断において,静脈性腎盂造影は必ずしも不可欠な検査とはいえない1)。
『EBMに基づく前立腺肥大症診療ガイドライン』2)の中でも,「②前立腺肥大症の診断法」において,軽症から中等度の典型的な前立腺肥大症には,上部尿路の画像診断(排泄性尿路造影もしくは腹部超音波断層診断)は原則として不要である。尿路疾患の合併あるいは種々の異常(血尿,治療に抵抗する尿路感染症,腎機能不全,尿路手術・慢性尿閉・尿路結石の既往など)がみられる前立腺肥大症患者には施行する,と述べられている。前立腺肥大症の好発年齢が高齢であることから,尿路腫瘍など,ほかに合併する泌尿器科的疾患の検索と前立腺肥大症に伴う上部尿路への影響の検索に主な検査目的が置かれていると考えるべきであろう。
静脈性腎盂造影検査法は,成人で20~40mlの造影剤を急速に静脈内注入するIVP(intravenous pyelography)あるいは尿路全般の造影描出であることからIVU(intravenous urography)と称される方法と,100mlの造影剤を緩徐に静脈内点滴注入するDIP(drip infusion pyerography)と称される方法の2つがある。前立腺肥大症においてはIVPにより検査の目的は十分に達成できうると考える。しかし,下部尿路症状を呈し,前立腺肥大症と推測される症例の中には,Kumonら3)の提唱する「起立性鼠径膀胱瘤」の存在が考えられる症例もあり,経直腸的前立腺超音波検査などにて前立腺サイズと症状が一致しないような症例においてはDIPを施行し,立位での所見の有無を検索すべきであろう。
静脈性腎盂造影は,決して無侵襲の検査法ではないことを銘記し,前立腺肥大症患者において何を検索し,何を鑑別診断するのかの目的に応じた検査オーダーが重要である。
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