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皮膚科に入局して以来10年以上,大学で乾癬の専門外来をやっている.数多い皮膚病のなかでも,この病気ほど治療の選択肢の幅が広いものは少ないのではないかと思う.皮疹の重症度はもちろんながら,患者さんの生活背景や希望なども考慮し,さまざまな治療法を試みその反応を見きわめながら,患者さんとともに治療の最終目標を探っていく.またありがたいことに,この病気は視診のみでも経時的な活動性の変化を十分とらえることができ,治療の効果判定も比較的容易で説得力がある.乾癬の病態生理については近年盛んに免疫系の関与が示唆されているが,また一方で不安やストレスなどで著明に増悪することもしばしば経験され,また除神経によりその支配部位の乾癬が軽快したという報告などもあり,神経系や内分泌系の関与も推定される.6年前留学の機会に恵まれ,3年間皮膚における免疫系と神経・内分泌系との関連について研究を行い,現在もそれを仕事の一部にしている.免疫,神経,各種ホルモンなどはそれぞれある程度独立した制御システムとして存在するが,これらはお互い密接に関連している.しかしこの生体防御やホメオスタシスという,生命維持の根幹に関する現象の詳細はいまだ不明な点が多い.これらの複雑な制御システムの研究を進める上で,最も重要なことはこれらの結果として表出されるデータの解析である.乾癬ではそのダイナミックな変化を定量化することができ,まさに目に見えるデータを十分に活かして,いまだ見えてこない制御システムの研究の手段とすることができる.患者さんの生活様式や今おかれている状況などを思いながら,まさに心と体の“バランス”を考える.皮膚から個体内部の制御システムを探る仕事を今後も続けていきたい.
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