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ある日,大学に通う一人の青年が私の外来に内科の開業医からの紹介状をもってやってきた.そこには「全身倦怠感が強く,抗核抗体が陽性で膠原病が疑わしい,一度診察してほしい」とあり,本人によくよく話を聞いてみると某大学病院では全身性エリテマトーデス(SLE)と言われたこともあるとのこと.一時は朝ベッドから起き上がるのも辛く大学にも通えない状況で悩み続け,SLEといわれてからは各種膠原病関係の一般向け書物を読みあさり,ますます不安に陥ったとも言うのである.元来彼はいわゆる赤ら顔だそうで,少なくとも私の診察の時点ではSLEによると思われる皮疹は(他の膠原病も含め),過去の皮疹の存在を想起させる色素沈着を含め一切なく,胸部X線,検尿に異常なく,血液検査では抗核抗体が陽性であるという以外は全く問題がなかった.その抗核抗体も疾患特異マーカーといわれるものとは異なるものであった.
私は抗核抗体に対する興味から,皮膚科領域ではほとんど取り上げられることのない「慢性疲労症候群(CFS)」にその頃より注目し始めており,診断用のアンケート用紙を彼に渡し,後日,彼がCFSに十分当てはまることが判明した.CFSの診断には,特異的な検査所見が今のところなく,除外診断が必須であることなど議論の余地は残されているものの,その疾患概念は定着してきている.CFSはSLE等の膠原病とは明らかに予後が異なる故,それらとの鑑別は重要である.特異的な皮膚症状がないことより皮膚科にはあまり縁のないCFSであるが,アレルギーやアトピーの合併も多いことも判っており,少なくとも膠原病を専門とする皮膚科医はCFSおよび類似の疾患とされる“結合織炎症候群”については知っておくべきであろう.ちなみに彼は今ではドクターショッピングや必要以上の病気の勉強はやめ,外来における表情もかなり明るくなって大学も通えるようになっている.
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