Derm.'98
神々の黄昏
山西 清文
1
1京都府立医科大学皮膚科
pp.21
発行日 1998年4月15日
Published Date 1998/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412902503
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数年前になりますが,厚生省の研究班で表皮水疱症の研究を分担させて頂く機会がありました.当初,水疱症については研究実績もなく,どのように研究を進めるべきか,考え込んでいたときに,先天性表皮水疱症単純型(EBS)の孤発例と考えられる若い女性の患者さんが受診されました.EBSでは,すでにケラチンK14,K5の変異が幾つか報告されていましたので,ご本人,ご家族と相談のうえ,早速,ケラチン遺伝子変異の解析を実施しました.K14の偽遺伝子に悩まされましたが,なんとかK14,K5遺伝子の塩基配列をシーケンスできるようになり,最終的に,K14に新規突然変異を見いだしました.患者さんはその後結婚し,第1子を出産されましたが,そのお子さんは生後3日目より水疱が生じており,母親と同じ遺伝子変異を認めることから,K14遺伝子がこのEBS家系の責任遺伝子であることは確実です.そして現在,患者さんは妊娠9週,胎盤の絨毛組織をもちいて第2子の遺伝子診断が可能です.
この症例を契機に,私は先天性皮膚疾患の遺伝子変異と病態に興味を抱くようになったわけですが,誰しも平均6個程度はどこかの遺伝子に変異があるらしく,疾患を発症するか否かは“神々”の気まぐれに左右されているようにも思えます.このように,生命現象は,いまだ謎めいて不可解ですが,そのなかに合理性を見いだそうとするのがサイエンスで,ときには,われわれの知恵で“神々”に一ぱい食わせることができるかもしれません.
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