Derm.'98
1週間の命
上田 正登
1
1神戸大学皮膚科
pp.56
発行日 1998年4月15日
Published Date 1998/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412902510
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2月の下句,一人の青年の死を看取った.メラノーマの患者で,こちらに来られた時には既に転移巣があった.約2年間のつき合いであった.死の1週間前に突然急速に貧血が悪化した.肝臓の転移巣からの腹腔内出血と判明,放射線科医による血管造影下の塞栓術が効を奏し小康状態となった.この日より家族による泊り込みの看護が始まる.DICも併発しており高度の貧血は持続的に続いた.彼の意識は常に清明であり,自分の病気の状態については十分理解していたにもかかわらず,諦めを口にせず,治りたいという強い気持ちを表に出した闘いに見てとれた.時期も長野オリンピックが華やかに開催されており,スピードスケートのゴールドメダリストの活躍を喜こびながらも,同い年の自分がおかれた状況に悔し涙を流し,自分自身が最も好きだったスキーではジャンプ陣の大逆転劇に心を鼓舞されたという.この間,多量の血液と血液製剤が投与された.投与を止めれば彼の命はそれと同時に絶えるのである.最期は肺出血による呼吸不全であった.
そして病理解剖を終えてひと息ついた時に頭に浮かんだ事は,これから生じるであろう医療費をめぐる愉快とは言い難い種々の問題であった.症状詳記を書いてレセプトを提出しても大幅に減点され,それに対して再審査請求を書く.それでも減点は復活せずに,次は病院の保険委員会等でお叱りを受けることとなる.医療費削減の必要性も重要性もよく理解できるのだが….とにかく憂うつな気分である.
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