Derm.'98
皮膚科の中の—Ph. D. の苦悩
瀬尾 尚宏
1
1浜松医科大学皮膚科
pp.12
発行日 1998年4月15日
Published Date 1998/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412902500
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癌という病気の免疫学的に最も注目すべき点は,癌細胞の排除に関係する免疫反応がなぜ起こらないのかということです.ところが近年の癌免疫学研究は癌の免疫治療を目指した細胞障害性T細胞の癌細胞認識機構の研究がほとんどで,この重要な命題を無視したものとなっています.これにはそれなりの理由があるわけですが,私の研究を例にお話ししようと思います。免疫反応というのは癌でも感染症でもそうですが,初期に円滑に反応が起こるかどうかが決定されます.マウスに癌細胞を移植した時は移植後5日目から7日目に免疫抑制反応が起こります.ところが,1)担癌初期に得られる癌組織は直径2〜3mm程度で,どんなにたくさんのマウスを使っても癌組織からのリンパ球抽出操作はリンパ球が居るか居ないか判らない抽出液を居ると思って行う盲目操作となり,少ない癌浸潤リンパ球を培養して増やし何とか研究することになります(研究の曖昧性).2)やっとリンパ球が取れたと思って喜んでいるのも束の間,もともと癌細胞は免疫反応が起こりづらい細胞ですから,あらゆるアッセイの結果の値は,常に低いものとなります(結果の信頼性の欠除).3)やっとある程度の結果が出て論文を書き投稿すると,こんどはコメントに「抽出したばかりの細胞ではどうなるか」など,あなたならどうやってたくさんのリンパ球を得るの?と逆質問したくなるものばかりであります(公表の困難性).以上が癌免疫研究をした者ならだれでも経験する障壁であります.しかしながら常日頃からこの研究なくしては真の癌免疫治療はありえないと考えている偏屈者の私は,日々癌組織と格闘するのであります.
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