連載 元気な皮膚科医であるために・4
皮膚科医は死だって恐れない
今山 修平
1
1九州大学医学部皮膚科教室
pp.757
発行日 1993年8月1日
Published Date 1993/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412900974
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末期癌にあっても,生きようという積極的な姿勢を持ち続ける人は,悲観的な患者より長く生存することが知られています.しかしこの事実も見方を変えてみれば,現在の検査法では両群の違いを見いだせないだけであって,後者はより末期の患者の集団である可能性,すなわち悲観的になる患者とは,心身ともに死を受け入れることができる段階にまで進行した患者である可能性を否定できません.ある程度以上癌が進行し,宿主の敗色が濃厚になってきたら,これ以上の癌の蔓延を許さないために(あるいは予想される困難を避けるために)宿主が自ら死を選ばせているのかもしれません.(今は測定できないにしても)積極的に生きようとする気持ちを破壊する因子を出すような癌は,ある意味ではより悪性の癌でしょう.とはいえ,これさえも個体としての一種のprogrammed death(予定された死)かもしれません.個体を早急に滅ぼす手段として自ら癌を造ったという訳です.
冬山で凍死するときには,眠れば死んでしまうということが知識としては判っていても次第に眠たくなり「もうどうでもいいや」というような気持ちになると聞いています.また,そこに至る事情は本当に様々でありましょうが,死に直面した時には「見るべきものは見つ」といった満足感が得られることもあるようです.木曾義仲も死を自覚したとたん強い疲労感に襲われたように書かれています.いずれにせよ「もういいよ」と感じさせるような因子が中枢神経または血中に満ちてきて,細胞の,そして個体の死への移行を容易にすると思われます.
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