巻頭言
死と隣り合わせの精神科医
中田 修
1
1東京医科歯科大学
pp.604-605
発行日 1988年6月15日
Published Date 1988/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405204527
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昨秋,徳島大学神経精神医学教室の生田琢巳教授からいただいた,同教授が書かれた論説によると,数年前に徳島県の非常に熱心な精神病院長が,精神病患者の家に往診して,入院を説得しているあいだに,その患者によって殺害されたという。また,2,3年前に,新潟県の精神病院の外来医師が通院中の精神分裂病の患者によって殺害されたことがある。わが国では,精神科医が入院中の患者によって殺害されることはあまり聞かないが,外国でときどきあるらしい。
私は長年,犯罪者の精神鑑定に従事して来たが,本当に身の危険を感じたことはごく稀である。鑑定の場合,私どもはたいてい拘置所の取り調べ室で被鑑定人と一対一で面接を行う。被鑑定人が心の奥底まで打ち明けるには,一対一の面接が非常に有益である。一対一で面接するといっても,いざというときはベルを鳴らすと刑務官がかけつけてくれる。ところで,私の今までの経験で,身の危険を感じたのは,せいぜい7〜8回ぐらいと思われる。これに対して総面接回数は1,000回以上になるのであろう。したがって,鑑定の面接中に身の危険を感じる頻度は0.5%程度であろう。
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