研究ノート・11
3年間の凍結
宮地 良樹
1
1天理よろづ相談所病院
pp.1159
発行日 1990年11月1日
Published Date 1990/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412900222
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5年ほど前,同僚のT先生とヌードマウスにUVBをくり返し照射することで,光発癌とNK活性との関連を調べる実験をした.200匹近いマウスに,来る日も来る日もUVBを当て,ケージ交換をしていると,髪の毛にまでマウスのにおいがしみついて,家では疎外された.1年ほど続けて,何とか仕事がまとまり,1986年にpublishしたが,二人の率直な感想は,「もう,こんなにしんどい仕事は二度としたくない」だった.しかし,副産物としてできた皮膚腫瘍を捨てるのは惜しいということになって,いくつかをcell line化した.大部分はfibrosarcomaだったが,一つだけ訳の判らぬcell lineがあって,皮膚に局注すると出血性の腫瘍をつくり,組織をみると血管腫のようだった.
当時の二人には,知識も技術もなく,それ以上はなすすべがなかった.T先生が留学することもあって,細胞は凍結されたまま3年が過ぎ,忘れかけていたころ,T先生が細胞生物学を勉強して,アメリカから帰国した.細胞外マトリックスとか増殖因子の話をしているうちに,「あの細胞は,血管内皮細胞ではないか」と彼が言い出し,characterizationをしてみようということになった.細胞は,液体窒素の中での3年の眠りから呼び起こされ,すでに彼にとっては,お手のものとなった細胞生物学的手法で,次々と興味ある事実が判明した.それではということで,形態学をやっている人や分子生物学を専攻している人,さらには企業の研究所までをまき込んで,精力的な解析がすすみ,着々と成果をあげつつある.
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