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図89致死型表皮水疱症(致死型水疱性表皮解離症) Epidermolysis bullosa letalis (Herlitz)といわれる型は,その重症度において前述の単純型の比ではない,殆どの症例が生下時既に多数の巨大な水疱あるいは糜爛面を示す.これは産道を通過する際に摩擦によって生じたもので,人工的にも正常にみえる皮膚をこすると水疱が生ずる.授乳の際に生ずる摩擦によって口腔粘膜にも潰瘍が生ずるため,チューブや非経口的栄養が必要となり,嚥下性肺炎,栄養障害,糜爛面の二次感染等により2〜3週間で死の転帰(letalis)をとることが多い.図89A,Bでは典型的な表在性の糜爛面がみられる.これは後述する組織の変化が表皮と真皮の境界部にあるため,深い潰瘍を作ることなく,薄く剥離した表皮がめくれている.この変化は表皮または真皮浅層熱傷に類似する.二次感染が起こらなければ,病巣は軽い萎縮を残して完全に治癒する(図89C,D).図C,Dで左胸部には治癒していない糜爛面があり,胸骨部には多少の色調の変化を示すが完全に治った病巣をみることができる.
致死型では病変が広範囲に及ぶために,臨床的には重症となるが,組織学的には殆ど変化を示さない正常に近い表皮が基底膜の直上部で分離している.変化はまずとびとびに起こり(図89E),これらの小さな分離がやがて連続的な表皮下水疱となる(図89F),真皮上層部は全く正常で,少数のリンパ球浸潤をみる以外に著変はない.膠原線維もエオジンに好染し,後述するdystrophic型にみられるような真皮上層の破壊や,水疱性類天疱瘡,ジューリング疱疹状皮膚炎にみられるような好中球や好酸球の浸潤が全くない.PAS染色を施すと基底膜は水疱の底部にあり(図89G),従って後述するように基底膜と基底細胞層の間(la—mina lucida)で分離が起こっていることがわかる,基底膜の直下の真皮乳頭層は表皮が剥離した後でも良く保たれ,結合織の変性がないことがわかる(図89H).以上の所見から,本型を(表皮—真皮)接合部型の水疱性表皮解離症,即ちjunc—tional EBと呼ぶこともある.本型では表皮に著変がないので,epidermolysisなる名称は適当でないが,基底膜より上を表皮と定義すれば,本型の変化は表皮内である.
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