連載 皮膚病理の電顕・42
表皮水疱症(VI)
橋本 健
1
,
松本 光博
1
Ken HASHIMOTO
1
,
Mitsuhiro MATSUMOTO
1
1Department of Dermatology, Wayne State University School of Medicine
pp.74-76
発行日 1985年1月1日
Published Date 1985/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412203189
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図93近代細菌学の黎明期に出現した巨人の一人にKochが数えられる.1882年に結核菌の発見を報じた論文で,彼の有名なコッホの四原則あるいは必要条件(Koch's postulates)を提唱している.即ち病原菌が特殊な疾病を惹起すると仮定するには次の四つの条件を満足しなければならない.1)その病原菌がその疾患のすべての症例から分離されること.2)病原菌と考えられるものは純粋に分離培養できること.3)培養した病原菌が感受性のある動物で疾患を再現できること.4)その病原菌はその動物より再び分離され,純粋に培養できること.
さて図85で解説した如く,simplex型1),dystro—phic型2)では蛋白分解酵素(protease)が基底細胞,真皮コラゲンなどの傷害を起こす原因であるとする高森らの説がある.ここで細菌をproteaseに置き換えてみると,上の四原則のうち三つまでは実験が可能であることに気付く.1)の条件を満足するには多数例からchromatographyによりproteaseを分離精製すればよい.しかし症例数の限られたjunction型では根気の要る仕事となる.従って間接的方法としてproteaseを含むと考えられる新鮮な水疱の内容を注射器で吸引し,正常なヒトの皮膚を浸漬したのがこの標本である3).表皮が真皮より分離しているが,両者それ自身には著変のない点で,この変化は図89の患者より採取した水疱の組織像に似ている.上図は24時間の浸漬で矢印の部分に分離の開始がみられる.下図は72時間後に完全な分離の起こった標本である.基質として用いた皮膚は正常な成人の腹部より採ったものである.
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