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昨今,遺伝子や分子生物の研究理論や方法の発展は目覚しく,皮膚科学もその恩恵に与っています.しかしながら,われわれ皮膚科医は「皮膚科学の基本は形態学である」ことを忘れてはいけません.発疹の形態に基づいて病名が付けられ,分類され,治療の選択や評価も考えるわけです.さらに,皮膚科医はやはり形態学が基本の「皮膚病理組織学」も知らなくては務まりません.私事ですが,若い頃,皮膚病理の勉強とともに,電子顕微鏡でさまざまな皮膚組織を観ていました.微細構造を知るとHE染色等の皮膚病理組織もよくわかり,さらには発疹の理解も深まるという具合です.しかし,最近は,皮膚科の教育において遺伝子や分子生物,あるいは免疫,生化学等が先行してしまい,とくに本誌に投稿してくださる若い皮膚科医の人達は,皮膚科学の基本が形態であることを教えられていないように思います.本誌『臨床皮膚科』では,データばかりの「治験論文」もたまにありますが,大部分は症例報告ないし原著を掲載しています.投稿論文をわれわれ編集委員の複数名が査読して毎月の委員会で審査していますが,委員全員がまず重要視するのは「臨床写真や病理組織写真の質」なのです.貴重な症例で,また,理論や文章がいくら優れていても,ピンボケ写真や論文内容に合わない写真ではどうしようもありません.臨床写真は,スナップや芸術写真でもなく,皮疹をできるだけ正確に表現したものでなくてはいけません.たいていは既に撮り直しできないわけで,撮影時によく考えて撮ることが大切です.一方,掲載にとても耐えられないような組織写真での投稿論文も大変多くて驚きます.例えばHE染色像で,もともと標本状態が悪い,染色が不良等では標本の作り直しが必要ですが,単に顕微鏡写真の撮影法や写真の作り方が悪いことは日常茶飯事という状況です.これでは,報告の意義や立派な内容をいくら強調しても,論文の価値は最低になってしまいます.
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