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従来,皮膚科診療においては,診断と治療を比べると,診断に多くの比重が置かれていた.これは,ある意味では当然で,正確な診断ができなければ正しい治療ができないことは自明である.また,皮膚の病変が視診,触診などの理学的診断で精微な診断が可能であることなども,大きな要因であったと考えられる.しかし,皮膚科専門医制度が整備され,皮膚科医の診断能力が向上し,また,治療薬,治療法の急速な進展に伴い,皮膚科においても治療が大きくクローズアップされるようになってきた.その理由の1つとして,基礎研究の進展が治療薬の開発に結び付くようになったことが挙げられるであろう.その象徴的存在が,乾癬治療における生物学的製剤の登場ともいえる.このような「診断」から「治療」の時代への移り変わりへの期待を担って出版されたのが,本書『今日の皮膚疾患治療指針』である.
本書は,「プライマリケアのための鑑別診断のポイント」「皮膚科の主な検査法」「皮膚科の主な治療法」の3章の総論に加え,「湿疹・皮膚炎,痒疹,掻痒症,紅皮症」から始まる32章の各論から構成されている.まず,「プライマリケアのための鑑別診断のポイント」で気付くのは,鑑別診断表がきわめて簡潔で,また,各論の参照ページが記載されているため,非常に使いやすいことである.さらに,多くの鮮明な臨床写真を使用し,プライマリケア医あるいは皮膚科研修医にも適したものとなっている.「皮膚科の主な治療法」では,多くの項目で患者説明のポイントが加えられており,皮膚科専門医にとっても有用なヒントとなろう.各論では,その治療をなぜ選択するのかという視点から病態と診断の解説がなされており,治療法が理解しやすくなるように工夫されている.さらに,皮膚科領域では,多くの疾患でガイドラインが策定され,治療法もガイドラインに基づいたものが求められている.ガイドラインそのものの解説はしばしば無味乾燥になりがちであるが,本書では図譜などを用いてガイドラインのポイントを簡潔に解説しており,きわめて理解しやすいものとなっている.また,ほとんどすべてのガイドラインを網羅しており,本書を手元に置くことでガイドラインの簡易版を備えている安心感を持てると言っても過言ではなかろう.
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