書評
─監修:塩原哲夫─皮膚科の似たもの同士―目でみる鑑別診断
宮地 良樹
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1京都大学大学院医学研究科・皮膚科学
pp.718
発行日 2010年8月1日
Published Date 2010/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412102698
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皮膚科医の臨床診断は「肉眼で見る画像診断」である.皮膚症状を一瞥して,瞬時に発疹の性状をパターン認識し,いくつかの鑑別診断をあげる手法であり,画像診断医がX線写真やCTを読影したり,病理診断医が病理組織を読み解いたりするのと同じである.実際の診療現場では発疹に触れることができるので,色調,浸潤の有無,熱感や圧痛,悪臭や稔髪音までまさに五感を駆使した(味覚は駆使できないが)追加情報を得ることができる.その段階で少なくとも3つ以上の鑑別診断を挙げることができるかどうかが皮膚科診断の力量を示す指標となる.最近の臨床医はすぐに血液検査や機器診断に飛躍するが,皮膚からの一次情報ほど貴重なものはない.医療機器や採血ができなくても自らの肉眼で臨床診断のかなりの領域まで到達できるのが皮膚科医の醍醐味であり,逆に皮膚科医が凛として矜恃すべき自負である.
次に問診や検査情報から,上記の鑑別疾患を仕分けしていく作業が行われる.鑑別に必要な要点を簡潔に要領よく選別することで,自ずと確定診断に限りなく近づくのである.ここまでで多くの臨床診断は完結するが,悪性腫瘍や鑑別に難渋する場合には皮膚生検で得られた皮膚病理所見により,自分の臨床診断を確認あるいは確信することが可能となる.皮膚科医は初診患者を診るたびに,この作業を不断に行うわけであり,豊富な経験と知識に裏付けされた仕分け作業こそが皮膚診断学の真髄であろう.「八卦見」と違うのは,単なる印象ではなく誰でも説得できるだけの根拠をもって診断思考過程の説明が可能な点であろう.
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