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皮膚科に入局した頃(1998年),山形皮膚科勉強会で「ヒトスジシマカ刺症の1例」という先輩の演題を聞いて,蚊に刺されただけで発表になるの?と不思議に思ったことがあった.後に,その頃は山形ではヒトスジシマカは珍しい存在だったということがわかった.温暖化に伴って,南方のムシたちも山形の地に生活圏を拡大してきていたのだ.その後,2011年9月に,アリに刺されてアナフィラキシー症状を起こした患者が2名受診した.アリによるアナフィラキシー患者の経験はなく,種類を調べたところ「オオハリアリ」で,刺されると時にアナフィラキシーを起こすことがわかった.このアリも南方系のアリのようだ.adult T-cell leukemia/lymphoma(ATLL)に地域性があることは有名だが,県内の日本海側にある病院に勤務していた頃,人口の割には多くのATLL患者を経験した.山形県内でも庄内地区には多いようだ.日本海側で海水浴シーズンによくみられる「バンダイムシ」と呼ばれるキタカギノテクラゲ刺症.重症では全身が痛くなり,モルヒネが必要な場合もある.海沿いの先生方にはありふれた疾患だが,内陸ではめったに診ることはない.専門医試験の山の1つであるVibrio vulnificus感染症による壊死性筋膜炎.これは試験勉強をしたときに初めて知った名前だった.西日本に多い疾患だが,このまま山形で皮膚科医を続けていて診断する機会は来るのだろうか?
研修医時代,恩師に「皮膚科医は皮膚に出た症状は全部診断をつけられないといけない」と言われたことがある.TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)で関税撤廃が叫ばれる折,皮膚疾患の地域差撤廃の波に負けずに,正確な診療ができるようこれからも精進したいと思う.
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