Derm.2012
都会の皮膚科医になって
阿部 名美子
1
1東京医科大学病院皮膚科
pp.75
発行日 2012年4月10日
Published Date 2012/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412103285
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私は川崎医科大学を卒業後,岡山大学皮膚科の医局に入局し,そのまま大学院生となった.大学病院での研修,その後の市中病院での勤務は非常に充実していたが,周辺環境はのどかないわゆる田舎であった.特に市中病院時代は,病院周囲を見回すと病院より高い建築物はなく,夜,アパートの窓からは赤色点滅信号しか見えない,夏になると毎週のようにマムシ咬傷の患者が入院する,といった具合であった.
それが,結婚を契機に上京することになり,西新宿高層ビル群の中の大学病院で勤務することとなった.病院(18階建て)は,周囲のビルのなかでは最も低い部類であり,夜もネオンが明るく,まさに都心である.ちょっとどきどきしながら働きはじめ,まず衝撃を受けたのが疾患の多彩さ,特にSTDの多さであった.勤務初日,見覚えのない皮膚症状の患者さんに頭を悩ませていたところ,偶然通りかかった同僚に「あ,梅毒疹ね」と一目で診断され,「念のためHIVも検査したほうがいいよ」と言われたのは衝撃であった.恥ずかしながら教科書でしか見たことがなかった梅毒疹(実はそういう先生は多いはず!)を毎週のように見ることになるとは当初は思いもしなかった.男性の肛門内にできる尖圭コンジロームを当然のように肛門鏡を使用しながら処置する驚き(性の多様性を含め)も,医局の症例カンファレンスでKaposi肉腫を見たときに,「これは学会発表になるだろうな」などと考えながら聞いていたら,誰も興味を示さずさらっと流れていった驚きも,勤務4年目の今なら納得の頻度なのである.
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