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本日は「書く」ことについて述べたい.「ものを書く」という活動は,あらゆる知的作業のなかで最も高度な作業である.『臨床皮膚科』で言えば,症例を通して新しく発見したことを,過去の知識に比べどこが違うのか,何が新しいのか,どのような意義があるのか,頭の中で整理し,自分なりの流れを作り,書き落とす.そして書いたものは,人に何かを伝えるものでなければならない.それも,端的に,わかりやすくである.相手に伝わらなければ意味がない.この「書く」作業は,修練といくつかのコツがいる.以下に,私が感じるコツを列挙する.
1)『要約』だけでひとつの物語であること.『要約』を読んだだけで症例のポイント,考察のポイントが本文を読まなくてもわかるようにすること.2)『要約』の最後には,その症例報告で最も伝えたいこと,症例報告をする意義を端的に述べること.『要約』は,論文全体の中で書き上げるのに最も時間がかかるはずである.3)『考按』のそれぞれの段落の最初の文章で,その段落で何を論じているかわかるようにすること.読者としては知っている内容であれば,その段落を読み飛ばすことができる.4)図説明を充実させること.図と図説明を見ただけで,メッセージが何かエッセンスがわかるようにしておくこと.5)1つの論文で,メッセージは1つであること.主治医として症例をもつと,いろいろな切り口があり,伝えることはたくさんある.しかし,そのなかで,最も大切なメッセージを1つだけ切り取り,それを相手に伝わるように構成を考えること.6)いい文章がすぐ書けなくても焦らないこと.一朝一夕では無理なので,ひとつひとつ論文を書き上げることによって,あるいはひとつひとつを相手に伝えることを積み上げて行くことによって,着実に進歩しているはず.
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