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20年間,毎年欠かさず出席していた米国研究皮膚科学会(The Society for Investigative Dermatology:SID)に今年出席することができなかった.連続参加記録などがあるものではないが,大変残念であった.理由は,新型インフルエンザの発生に伴い大学医学部・病院より出されたメキシコ,アメリカ,カナダへの渡航禁止令のためである.国別でみると,出席を辞退したのは日本,中国が目立っていたようである.アメリカ,ヨーロッパからはほぼ通常通り参加していたと聞く.この異なる対応は,個人による判断が重視され,個人責任が確立している文化と,人と違うことをすることを認めにくい,全体責任が強い文化との違いを反映しているとも感じられる.グローバル化していく社会の中で,国境,境目というのが見えにくくなっていると感じている最中に,境界が明確に存在していることを忽然と再認識させられた.
モントリオールへの出張を急遽取りやめたために,5月のゴールデンウィークに時間ができてしまった.そこで,黒木登志夫さんの「健康・老化・寿命─人といのちの文化誌」と「落下傘学長奮闘記─大学法人化の現場から」を読んだ.黒木先生は,角化細胞を含めた上皮系のがん研究でご高名なばかりでなく,東大医科研の教授を長い間務めた後に,国立大学法人化(2004年4月)をはさみ,7年間岐阜大学学長を務めた方である.1冊目は,がんを専門とする卓越した研究者が,がんとは直接関係のない健康・老化・寿命をどのようにみていくのか,文化的な造詣の深さも含めて,実におもしろい.ナポレオンの肖像画において右手を懐に入れている理由は,胃癌のためか,体部白癬のためか.田上八朗先生のコメントも登場する.2冊目は,岐阜大学病院を,新棟移転という重要な時期にどのように財政改革をしていったのか,大学全体からみたときに,医学部・病院とはどのような位置づけなのか,これも実におもしろい.北島康雄先生の奮闘も登場する.この2冊に出会えたおかげで,モントリオールに行けなかった無念をはらしてあまりある時間を過ごすことができた.
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