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1998年5月,国際研究皮膚科学会(IID)のサテライトシンポジウムとして水疱症に関する国際会議がザルツブルグで行われた際,私が完成して間もなかった天疱瘡血清診断薬としてELISA法の内容を発表したときのことである.講演終了後,あるアメリカ人が真っ先に手を挙げて質問に立った.どんな質問が来るのかどきどきしながら内容を聞こうとしても,何を言っているのかよくわからない.どう答えていいのかもわからない.そのとき初めて,“conflict of interest”「利益相反」という単語を知ることとなった.要するに,講演の最後に,本研究で開発したELISA法はMBL社が製造販売し,今では世界中どこでも入手可能ですと,親切心でふれたのが問題となった.発表者が会社とどのような関係があるのかを前もって宣言をしていない,発表者が会社を通して何らかの利益を得る立場であるならば,発表者の結論はバイアスがかかっている可能性があるので,そのことを聴衆は知っておく権利があるというのである.これは私たちの文化からすると違和感のある概念であった.当時 “conflict of interest”のことが話題になったときに,必ずしもすべての欧米人が同じ感覚を持っていたわけではなく,あるヨーロッパ人は「これはアメリカ的な発想だ」と批判めいたことを言っていた.それから約9年が経っている.現在では,主な英文誌はほぼ例外なく,投稿規定の一つとして“conflict of interest”の項目があり,否が応でも告知しなければならない.現在においても,どこまでが利益相反で,どこからが利益相反でないのか,明確に判断することは容易ではない.しかし,利益相反があるにもかかわらず告知せずいることが,イノセントでなく悪意と解釈される可能性があるという国際感覚が徐々に広がっているのも事実である.本誌でも6月号から「利益相反」が投稿規定の一項目として加えられ,「利益相反」を明記することになった.皮膚科領域の邦文雑誌としては初めての試みと思われる.ご意見のある方は,ぜひ編集室までご一報をお願いしたい.
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