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健康診断(Annual Physical Examination)
前回,病気の医療相談のことを書いたが,今度は人間ドックや健康診断についての質問がきた.そろそろドックに入ろうと思うが,いろいろなコースがあるのでどれを選んだらよいか,という.内視鏡は上からも下からもしたほうがいいのか,脳ドックもしたほうがいいのか,などと続く.エッ,患者が検査を決めるの? 脳ドックって何? 思わず答えに窮してしまった.自慢ではないが,私は日本にいたときは健康だったのと忙しかったのとで,ほとんど医者にみてもらったことはなかった.まさに医者の不養生である.若かったのでドックに入った経験もない.また,こちらに来てからは,医者としても患者としてもアメリカ医療にすっかり慣れてしまっているので,日本での状況が全くつかめない.早速コンピュータで検索してみると,なるほど,日帰りコース,一泊コース,レディースコースにオプションと,旅行のパンフレットのように盛りだくさんである.脳ドックも,CT,MRI,MRAなどがあり,しかも安い.脳の検査が10万円以下でできるなんて,アメリカでは考えられない.心臓ドックでは冠動脈造影CTなどが入っている.さすが,至れり尽くせりの日本のサービスである.医学知識のある私でさえどのコースを選ぶのか考えるくらいであるから,一般の人が迷うのもうなずける.
そこで,ここはまず人生の先輩である両親の経験をきいてみてから考えることにした.ちなみに私の母親は70代後半,父親は80歳であるが,二人とも大病もなく,元気に暮らしている.彼らによると,毎年,自治体による住民健診の通知が来て,それに行っているとのこと.診察,血液検査,尿検査を主とする成人病検診と,胃X線,便検査,Pap検査,マンモグラフィー,胸部X線による癌検診があるとのこと.これらの検診で十分だから人間ドックには行っていないという.両親曰く,この検診は70歳以上は無料で,最近になって二人とも無料になったと喜んでいたところ,父親が80歳になった今年は母親にしか通知が来なくなった,という.確かに80歳にもなると,今さら異常を見つけても予後や寿命はあまり変わらない,ということらしいが,まだまだ元気いっぱい,もうしばらく人生を楽しむ予定の父親にとってはたいそう不満なことだったらしい.さっそく抗議に行ったとのこと.そこで,80歳以上には通知がないけれども希望があれば受けられることがわかり,安心すると同時に,その場でちゃっかり今年の分を受けてきたという.元気で生きることに対してこれくらい貪欲だと,長生きしそうだ.
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