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職探し(Job Hunting)
昨年,この『臨床皮膚科』の連載にてアメリカで皮膚科医になるまでの過程を掲載させてもらったが,今回はアメリカで皮膚科医になってからの体験談を執筆させていただくこととなった.前回の連載を読んでくださった読者はご存知かと思うが,私は京都大学皮膚科からコロラド大学へ研究留学中にアメリカにて仕事を続ける決心をして,ワシントン大学にて医学研修(1年の内科研修と3年の皮膚科研修)を受け直した後,2002年夏よりコロラド大学のAssistant Professorとして皮膚科医をしながら自分の研究室を持っている.2年半たってようやく軌道に乗り始めてきたところで,まだまだアメリカの生存競争を学びつつ成長している途中であるが,新参者の体験談として気楽に読んでいただけたら幸いである.
日本のように終身雇用制度が全くといっていいくらいにないアメリカでは,アメリカ人はよく転職(職場を変わったり,職種を変えたり)をする.私たちのような医師の場合,大学の皮膚科教室の一員ではあっても,いわゆる日本のような医局制度はなく,教授の命令で動くこともない自由と引き換えに,自分の就職は自分で面倒を見るという厳しい現実と向き合うことにもなる.医師の場合,他の職業に転職する人は少ないが,それでもビジネス関連の資格を取ってバイオテクノロジーの会社の重役になる人も最近は増えてきた.また,マイケル・クリクトン(「ジュラシックパーク」や「ER」などを書いている)のように医学の知識を生かして作家に転向する人も数は少ないものの,他国と同じようにいる.しかし,日本の医師と比べて圧倒的に多いのが,職場移動である.ここでいう職場移動とは教室内での関連病院への移動ではなく,全く別の環境(他大学や未関連病院)への移動をいう.転職,職場移動というと不景気という暗いイメージがあるかもしれないが,アメリカの転職はマイナスではなく,プラスのことが多い.言い換えれば,より良い条件の職業や職場,地位に就くためには,同じ場所にいるよりも職場や職種を変えるのが最も手っ取り早い近道なのである.アメリカの生存競争では,変化や進歩のない状態はあまり好ましくなく,常に新しい風を求めて前進することが推奨される.同じ場所に留まっていると,よほどその場所が好きだったり,離れられない理由があるか,あまり能力がないので他に移動できないか,のどちらかである.また,大学のほうも,移動によって違った風を取り入れることを歓迎する.ある大学のある学部では,ポスドクがそのまま職員(ファカルティ)になるのを禁じている.これにより,ポスドクは居心地のいい古巣から世界に羽ばたき,それまでに学んだことを他の大学で生かして貢献し,当の大学は別の大学からバックグラウンドの異なる研究者を迎え入れて,研究の知識,思考過程の幅を広げる.
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