特集 耳鼻咽喉科・頭頸部外科における手術の危険度
鼻
19.経蝶形骨下垂体腫瘍摘出術
寺本 明
1
1日本医科大学脳神経外科学教室
pp.91-94
発行日 2002年4月30日
Published Date 2002/4/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411902537
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はじめに
経蝶形骨下垂体腫瘍摘出術(以下,本手術と略)は,脳神経外科領域では安全かつ低侵襲な手術として知られている。しかし,軽症の合併症はしばしば経験されるとともに,様々な種類の重症合併症の存在も知られている。また,稀ではあるが死亡例の発生を仄聞することもある。
その理由の1つは,術野が狭くかつ深いことにある。周知のごとく,下垂体は頭蓋のほぼ中心に局在するため,頭部の手術としては最も深い部分を操作することになる。用いる鼻鏡の入口部の開きは,上口唇下法で3cm,直接鼻腔法で最大2cm,長さは前者が9cm,後者が7 cm,奥の開きは両者とも1〜1.5cmである。実際の手術は,さらに鼻鏡先端の2〜3cm奥で行うことになるため,本手術法の道具は全て有効長(バイオネットの先端部)が15cm以上と長い。手術用顕微鏡では視角が制限されるため立体感覚が不十分であるうえ,不慣れな術者の場合,2種の手術道具を術野で的確に用いることができない。
これらは本来,熟練により克服されていくものであるが,下垂体腫瘍の年間発生率が人口10万人当たり1〜2例という頻度から考えると脳神経外科医一般の基本的手技になり得ないことがわかる。事実,大学病院を除く都会の大病院での本手術の件数は年間3〜5例である。いずれの手術も同じではあるが,本手術法では後述するごとく,手術経験数が増加するほど有意に合併症や死亡の比率が減少する。
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