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空間識形成における耳石器の役割—ニューロラブでの結果と今後の展望
肥塚 泉
1
1聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科学教室
pp.421-427
発行日 2001年6月20日
Published Date 2001/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411902377
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はじめに
われわれ人類は,二足歩行をすることにより,それまでは単に足の一部に過ぎなかった前肢を,歩行以外の目的に使用することが可能となった。その結果,前肢は“手”に進化し,われわれはこの手を用いることにより,道具の使用が可能となった。一方,それまでは4本の足で支えていた体を,後肢2本で支えなくてはならなくなった。また,巨大化した脳を有する頭部が身体の中で一番高い部位に位置することとなり,やじろべえを逆さにして立てるような,物理的には非常に不安定な構築となった。われわれ人間の形態,各部分の重量配分を正確に模した人形を,支えなしに立たせておくことは至難の技である。一方われわれは,ほとんど意識することなしに2本足で立ち続けることが可能である。そればかりか,歩行中や走っている最中,さらには地面が極度に傾いている状態でも,自分の体および頭部の位置を正確に制御することが可能である。われわれ人間がこのようにいかなる状況下においても,2本足で立ち続けることができるのは,手の自由化と引き換えに請け負ってしまった物理的に不安定な構造を,能動的に制御する機構を有しているからである。これにはいくつかの制御機構が関与している。それらの中で主体をなすのが平衡感覚で,その受容器が前庭系である。つまり二足歩行をするわれわれ人類にとって,平衡感覚は必要不可欠な感覚なのである。
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