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はじめに
鼓室形成術は,炎症や外傷などで破壊された伝音機構を中耳伝音理論に基づいて修復し聴力の改善をはかる術式である。1950年代にWullsteinらにより提唱されたこの画期的な術式は,その後の手術顕微鏡の進歩,手術器具の発達,人工耳小骨やフィブリン糊の開発などで,現在では中耳炎をはじめとする中耳疾患の基本的手術法として広く普及し定着している。しかし,鼓室形成術の手術成績は,中耳病変の種類や程度,耳管機能障害の有無,術者の技量,伝音連鎖の再建術式,耳小骨の可動性など様々な要因によって左右され,必ずしも手術によって聴力が改善するとは限らない。このうち耳小骨の可動性,とりわけアブミ骨の可動性は術後の聴力成績に影響する最も重要な因子の1つと考えられる。実際,術後に気導・骨導聴力差が改善しない原因としてアブミ骨可動性の低下が疑われる症例は多い。アブミ骨が固着していたり可動性が低下していれば,単に耳小骨連鎖を再建しても聴力の改善は期待できず,聴力向上のためにはアブミ骨手術や人工中耳埋め込み術などを要する場合もある。このように,アブミ骨可動性の問題は手術法を選択するうえで重要と考えられるが,現在のところ,これを術中に評価する方法は確立されておらず,術者が極小ピックなどでアブミ骨に触れ主観的に判断する以外にないのが実状である。このような方法では,アブミ骨の上部構造が消失しているときは評価が極めて難しい。アブミ骨可動性を客観的に評価する技術の開発が求められる所以である。
このような観点から,筆者らは圧電セラミック素子を利用した内耳インピーダンス測定装置を試作し,主にイヌを用いた実験を行い安全性などの基礎的研究を行ってきた1,2)。最近では,さらに患者のインフォームド・コンセントを得たうえで,本装置を中耳手術中に用いてアブミ骨可動性の評価を行っている3)。
本稿では本装置の構造と動物実験成績,および臨床例における術中検査の概要を述べる。現在の装置は試作品であり改善の余地が残されているが,この分野の研究に若干でも貢献できれば幸甚である。
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