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はじめに
聴覚障害については以前から診断・治療・研究に関して多くの報告がみられるが,嗅覚障害については聴覚障害に比較しその報告が少ないように思われる。視覚や聴覚障害に比し嗅覚障害の方が日常における影響度が小さいからかもしれないが,いざ本人が全くニオイがわからなくなった場合を考えれば,食事の味気なさ,ガスもれや火災の発見の遅れ,食物腐敗の鑑別不能,女性では自分の身体から悪臭をだしていないかどうかがわからないための不安から,人前に出ることの忌避など大きな問題が引き起こされ,決して医療として等閑視できない疾病である。
臨床面で以前から最も問題になっていたことは,聴覚検査では統一されたオージオメーターによる検査法が確立されているにもかかわらず,嗅覚検査については統一された検査法がなく,したがって各自が勝手な方法で行っているため,報告されている嗅覚検査データー)を比較検討することすらできないことである。このような状況下に昭和46年4月から3年間にわたり豊田文一(金沢大),北村武(千葉大)を班長としての「嗅覚検査のための基準臭と検査方式の研究」(文部省科学研究費)の研究班および高木貞敬(群馬大・生理学)を班長としての「嗅覚障害の治療法の開発に関する研究」(厚生省医療研究助成補助金)の研究班とが組織され,始めて13大学が協力しての基準嗅力検査法開発のための共同研究が行われた。そしてその研究成果は「嗅覚障害—その測定と治療」(医学書院・1978年)と題して発行され,また臨床用の嗅覚障害診断用T & T式オルファクトメーターも開発され市販されるにいたり,今日のように我が国においては一応統一された嗅力検査法が一般に普及するようになった。また治療法に関しては,ビタミンB剤の投与やアリナミン静注ぐらいしかなく,治療効果があまりあがらない状況であったが,ステロイドホルモン剤点鼻療法(昭和大学方式)が開発され普及するにいたり,嗅粘膜性嗅覚障害の治療成績は明らかに向上した。
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