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Case
患者:中年男性
主訴:両側鼻閉,後鼻漏
現病歴:中学生の頃から副鼻腔炎を指摘されていて,上顎洞穿刺洗浄や抗菌薬内服にて治療されていたが,鼻汁,鼻閉感は続いていた。当科受診のおよそ半年前に他院内科で気管支拡張症を指摘され,クラリスロマイシンを投与されていた。副鼻腔炎の精査目的で当科を紹介となった。主な症状は鼻閉,後鼻漏で,嗅覚障害や味覚障害はない。気管支喘息の既往や合併はない。
既往歴:30歳代に肺炎
家族歴:特記すべきことなし
嗜好歴:〔喫煙〕10本/日×20年間
身体所見:鼻中隔は右に凸で右下鼻甲介と接していた。両側鼻内に粘性白色鼻汁がみられた。
検査所見:末梢血白血球数5830/μL,好酸球1.4%であり,血清中特異的IgE抗体は,アルテルナリア,クラドスポリウム,ムコール,アスペルギルス,ヤケヒョウヒダニ,ペニシリウム,カンジダ,黄色ブドウ球菌・エンテロトキシンA,黄色ブドウ球菌・エンテロトキシンB,スギ,ヒノキ,カモガヤ,ブタクサのすべてで陰性であった。
術前の副鼻腔CT(図1)では,左上顎洞に粘膜肥厚,両側上顎洞に少量の液貯留がみられた。蝶形骨洞にも少量の液貯留がみられ,篩骨洞には軽度の粘膜肥厚がみられた。前頭洞には特に所見がなかった。
胸部単純X線写真(図2a)では,右肺中葉の透過性低下がみられた。
胸部単純CT(図2b)では,右肺中葉に気管支拡張を認め,右下葉末梢側にも同様の所見と,分泌物貯留を疑う所見を認めた。
両側鼓膜は菲薄化し,色調は褐色であった(図3a,b)。両側の軽度伝音難聴を認め(図3c),ティンパノグラムでは両側C1型であった(図3d)。
その後の経過:以上よりJESRECスコア3点の非好酸球性副鼻腔炎,鼻中隔彎曲症と診断された。マクロライド療法で鼻に効果なく,難治性と考え,両側鼻内内視鏡下汎副鼻腔根治術と鼻中隔矯正術が予定された。
術前のインフォームド・コンセントでは,これまでの経過,症状から原発性線毛運動不全症(primary ciliary dyskinesia:PCD)の可能性が高いことを説明した。このとき患者から,不妊治療の際に精子の鞭毛は動いていなかったとの情報提供があった。
手術では,まず電子顕微鏡での線毛の観察のために下鼻甲介粘膜生検を行った。両側蝶形骨洞を開放したところ,なかに粘稠度の高い白色の膿性貯留液を認めた。左右の蝶形骨洞中隔も切除して単洞化させた。左鼻腔内には鼻茸は認めなかった。左上顎洞後壁は黄色の肥厚性粘膜で覆われていた。右鼻腔内にも鼻茸は認めなかった。
下鼻甲介粘膜の線毛の電子顕微鏡検査の結果,中心微小管が欠損している線毛が観察され(図4c),PCDと診断した。常染色体劣性遺伝であること,禁煙,ワクチン接種が大切であることを併せて説明した。
その後,1日3回の自己鼻洗浄を勧めた。術後7か月を経過した時点では,鼻の調子はよく,副鼻腔はよく開放されていた(図5)。近医の内科からクラリスロマイシンの処方は継続されていた。
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