特集 ウイルス感染症
V.臨床ウイルス学
ウイルスの現況と展望—臨床面(耳鼻咽喉科)
小川 浩司
1
1北里研究所病院耳鼻咽喉科
pp.973-978
発行日 1988年10月20日
Published Date 1988/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411200251
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I.はじめに
今日一般耳鼻咽喉科を訪れる患者のほぼ半数は感染症である。そしてその大部分の患者の病巣からは一般細菌が検出されるので,診療上ウイルスを意識することは少ない。しかし急性感染症の多くはウイルス感染が契機となって発症し,細菌はこれに続く二次的感染が多いといわれている。流行性耳下腺炎や帯状疱疹のように初めからウイルスによることがはっきりしている場合もあるが,多くの場合われわれはウイルスのことをほとんど考えずに治療を行っている。それはヒトがウイルスに侵されても,種々の免疫細胞が動員,活性化され間もなくこれらのウイルスを封じ込めてしまう,あるいは生体から一掃してしまう生体防御能が備わっていることや,伝染病のような強力な感染症に対してはワクチン接種を受け,われわれの免疫能がすでにできあがっているからである。
しかし突発性難聴やメニエール病,多くの悪性腫瘍がウイルスと関連して発病するとしたら,ウイルスは耳鼻咽喉科医にとってもっと重要な存在となるであろう。AIDSの場合はウイルスが,ウイルスに対する唯一といってもよいかも知れない防衛手段である免疫細胞を破壊することによって生命を奪うという人類存亡にかかわる問題となっていて,ウイルス感染症の重要性見直しの契機となったが,われわれ耳鼻咽喉科医にとっても対岸視できない問題である。
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